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海外情報クリップ 米国における妊婦への暴力の実態~妊婦と出生児の転帰~

 米国疾病管理予防センター(CDC)は、米国内の感染症や人口動態などの調査結果を逐次公表しています(MMWR)。今回は妊婦に対するパートナーの暴力行為(以下IPV)の実態と妊婦・出生児の転帰に関する報告が掲載されました。米国内には、司法権管轄区がCDCと共同管理する「妊娠リスク評価監視システム;PRAMS」が50か所あり、その活動の一環として産後6か月以内の女性を対象に、妊娠前・妊娠中および産後のIPVの有無と、女性と出生児の健康状態に関する調査(郵送または電話)を実施しています。今回の報告書ではこの内9管轄区2016~22年のデータ約4万8千件が使用されました。それによると、全体の5.4%が妊娠中にIPVを受けたことがあると回答し、その内訳は、パートナーからの威嚇などの精神的暴力(5.2%)、身体的暴力(1.5%)、性行為を強要する性的暴力(1.0%)などでした。さらにIPV被害妊婦はそうでない妊婦に比べて妊娠中の喫煙あるいはマリファナや違法薬物の使用が約2倍多く、うつ症状の割合も約2.7倍でした。その一方で、糖尿病あるいは高血圧の有無では有意差はなくそれぞれ0.9倍、1.1倍でした。同様に出生児を比較したところ、被害者の低出生体重児の割合は約1.3倍、早産(<37週)は約1.2倍といずれも有意に高く、この傾向は精神、身体、性のどのタイプのIPVでも共通していました。

 さらに本論文の引用文献(Keegan、2024)によると、妊産婦殺害事件の約4割はIPVによるもので、妊娠中絶が厳しく制限されている州ほどこの割合は高かったという結果があります。このような事案を予防するためには、医療従事者による妊婦のスクリーニングと専門施設への照会、妊婦とパートナー間の健全な人間関係のスキルを教えること、また困窮している妊婦への経済的支援などはまず考慮すべき対策であると述べています。

参考 MMWR Vol.73,No.48

(翻訳・編集=オブジン)

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